2008年10月1日水曜日


ああどうしてぼくは嘘ばかり書いてしまうんだろう。ぼくは天才でも変態でもなんでもないし、ぼくは自分で言うほどダメな人間でもなんでもないのだ。ぼくは普通の人間だ。何のおもしろみもない、ごく普通の、平平凡凡な人間だ。それなのにぼくは、ロックスターやら大文豪やらにあこがれて、涙目になって彼らの真似をしてみせるのだ。ぼくはお酒なんて飲みたくない。ぼくはもっと平凡な人間だ。ぼくはきっとロックスターになんてなれっこないのだ。デビットボウイみたいな顔もしてなければ、太宰のような文才もない。それでもぼくは、滑稽な化粧をしてへたくそな小説を書き、必死に自分では稼ぐまいとし、必死に酒を飲んで、やりたくもない女たちとセックスをして、どうだぼくはロックスターだと、血を吐き涙を流して言ってみせるのだ。魂が泣いてるんだよ。全部嘘さ。全部本当だ。それでもぼくは、どれだけ惨めな思いをしても、どうしてもロックスターになりたかった。でも本当は、ぼくは天才でもロックスターでもなんでもなくて、ただの気が弱いいじめられっ子だ。寂しがりやのいじめられっ子は、みんなの気が引きたくて、でも引きかたがわかんなくて、だからぼくは壊すしかないのだ。死神がぼくの右肩にその手をかけている。ぼくは魂を失う代償に、この世界と愛を与えてもらった。ぼくなんていない。どこにもいない。ぼくは愛だ。全部だ。そして全部嘘だ。ぼくは寂しい。男女構わず何十人とセックスしても、さみしい。ぼくは君に触れたい。でもぼくはどうしてもその一言が言えないのだ。恥ずかしくて、たまらないのだ。それに君はぼくのことなんて…

ぼくは有名になりたい。有名になって、誰からも赦されたい。でなければ、ぼくは恥ずかしくて道も歩けないくらいだ。みんなぼくに怒っている。ぼくはどうしたらいい?赦されるには?有名になったら、きっとみんなわかってくれるだろう。ぼくを友達にしてくれるかもしれない。ぼくはみんなと友達になりたかった。でも、どうしたらいいのだろう。足を舐めればいいの?犬のふりをすればいい?ぼくは自分の顔が嫌いだ。いつも怯えた目をしてる。いつ怒られるんだろうと、ずっとびくびくしている。人を不快にさせまいと、いつも精一杯に笑っている。みんなぼくを必要としない。ぼくはひとりだ。なんでぼくは悲しくて仕方がないのだろう。ぼくはみんなと仲良くしたいのに、どうして人を差別するやつの方は何も苦しまずに、ぼくはこんなに悲しいのだろう。どうしてみんなみんな仲良く手を繋ぎたいと思う人ばかりが、いつも苦しくて仕方がないんだろう。みんな仲良くしたいのに、そうしてこの世界のみんなみんなが、全員幸せになるハッピーエンドがやってきたらいいのに。魂が血をこぼしているんだ。ぼくはロックスターになるんだ。ロックスターになったらきっと、ぼくはみんなみんなと仲良くできるんだ。だってぼくはロックスターなんだから!ぼくは歓喜と溢れんばかりの愛の中で大いなる大地にキスをする。神よ、貴方に魂を捧げます、その代償として、どうかぼくを赦してください。どうかぼくを叱らないでください。出ていけって言わないでください。ここにいても良いと言ってください。ぼくは普通だし、天才でもロックスターでもないけど、けれどもぼくは自分が罪人であり、許されない存在だということだけはよくわかっているつもりなのです。貴方がぼくを赦してくださらなかったら、ぼくは一生顔を上げて町を歩けないでしょう。みなぼくに石を投げるに違いないのです。ああ神よ、ぼくはぼくのことを忘れた人をゆるします。ぼくはぼくを裏切る人を許します。ぼくもぼくが愛する人もやがては死に、この世界からいなくなって、永遠に人々の記憶から忘れさられてしまうことを受け入れます。ああ神よ、貴方が許してくれるなら、ぼくはそれでも生きます。死ぬまで真面目に精一杯に生きます。ぼくはこの愛が、例え嘘でも、やがて跡形もなく消え去ってしまうものだとしても構いません。孤独よ、絶望よ、この世で最も高貴なる魂よ、ぼくを天国に連れ去ってくれ。ぼくは何も出来ない、歌うことも話すことも伝えることも、歩くことも描くことも笑うことも、憎しむことも夢見ることも愛することすらも、だからぼくは天国にいきたい。そうして君に赦しを乞うのだ。


「泣いてもいいかい?」
「なぜ泣くの」
「あまりに多くのことを忘れてしまったから」



そうしてぼくは、世の中全部全部の、忘れられてしまったもののために泣こうと思う。人間はやがてみな、忘れ去られるのだ。