2008年11月27日木曜日

食べて


女になりたい
女に生まれたかった
昼のうちに掃除をすませ
皿を洗い夕げをつくり
洗濯物を取り込んで
あの人の帰りを待つ
ベッドではたくさん愛してあげるの
綺麗な身体で
疲れた今日一日を
私が慰めてあげるの

誰かの愛人になりたい
売春婦もいい
真っ赤なドレスを着て
シャネルの香水をつける
私はいるだけで
私を必要とする
身体があるだけで
私は必要される
絶望的なほど
人の目が欲しい
燃え上がるビロードよう
火がつくように欲望して
貴方のお好きなままに
泡のあふれたバスタブで
震える指先で月を蹴る
好きなだけ楽しんだら
捨てるように帰って

私は思った
私は何も欲しくない
みんなが私を欲しがれば
私は何も欲しくない

愛なんて知らない
貴方なんて知らない
私しかいらない

蟻のように働く時間があったら
蝶のように化粧をしていたい

蟻に食べられてしまうために

私なんて何百の蟻に
黒々とした鉄のようにたかられて
もがれ、焼かれて

いなくなってしまえばいいのに






2008年11月11日火曜日

死なないルーシー


私はアンドロイド。 23世紀のロシアで踊り子を務めている
私は月に一度のメンテナンスで半永久的に稼動することが出来る。 

死ぬことはない。
眠ることもない。 

その代償として、自分が本当に起きているのか、生きているのかもよくわからない。 
もっとも、ロボットが生きているかどうかを気にするなんて妙な話だ。 

それでも愛する人はいる。 
劇場の下働きの老人、イワンだ。 
イワンは月に一度、満月の夜、私を裸にしてメンテナンスをする。
油圧を下げ、しわだらけの手で、シリコンからにじんだオイルを丁寧に拭く。 
もうこんなことがかれこれ8年も続いている。 


私に見える世界は、現実と幻がごちゃごちゃだ。 
眠らないアンドロイドは起きながらにして夢を見るからだ。

時折、イワンと踊る幻を見る。
どうしてこんな夢をみるのだろう。
ポールに映る自分の姿はひどく歪んでいる。

劇場は、床も天井も全てが鏡ばり。
無限の私が、じっと私を見つめて、私の目を回す。
もう何が過去で、何が今なのかもわからなくなった。


ふと気づくと、イワンが身体を拭いている。
真っ白のつきひかりが、鉄格子の窓から差し込んでいる。

そうしてまた気を失った。