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ぼくは嘘ばかりついてきた。父さんにも母さんにも、友達にも、最愛の人にすらも。怖かったのだ。本当のことを言えば、誰もぼくのことなど許してくれるわけがないと思っていたのだ。ぼくは大げさな人間だ。大げさにしなきゃ、誰もぼくのことなど見てくれないと思っているのだ。人よりずっとすごくなくちゃ、誰ひとりふりむいてくれるわけがないと思っているのだ。だから嘘をついてでも、人の気をひくのだ。みんな簡単にだまされた。ぼくが愛しているというと、みんなぼくが愛しているのだと思った。ぼくが苦しいというと、みんなぼくが苦しいのだと思った。ぼくが笑顔でいると、みんな安心してよりそってきた。人をだますのなんて簡単なのだ。真面目な顔つきで真剣に話せば、どんな嘘でも本当に聞こえる。ぼくは人間なんて、なんて簡単なんだと思った。人間なんて、その程度の、くだらないものなのだと思った。小さい頃から、ぼくには、自分以外の全ての人間をくだらないものと見下すくせがついていた。どうしてこんなに簡単に、みんなぼくの思い通りになるのだろう。ぼくはそのうち思うようになった。ぼくは神様にえらばれた人間で、神様になんらかの理由でこの地球に送り込まれたのに違いない。そうして、このえらく愚鈍な、羊の群れたちを導くことがきっとぼくの使命なのだと。ぼくは神様のことばかり考えるようになった。そうして、どうしたらこの世界を救えるかばかりを考えていた。
大学生になって、女がぼくに言い寄ってきた。大して美人というわけでもなければ、何か取り柄があるというわけでもない。地味で、何も知らない、やたら髪の長い、あどけない顔をした女だった。色は白く、笑うと頬はリンゴのように赤くなった。女はぼくについてまわった。どうやら、ぼくのことをいい人だと思い込んだらしい。そう、この女もほかのみなと同じだった。ぼくの嘘に簡単にだまされたくだらない人間だった。話にもならない。ぼくは鼻でわらった。ぼくはどうせ女と付き合うなら、ものすごい美人とつきあおうと思っていた。それも、ただ単純に、悪魔のようなセックスをする、ただそれだけのために。こんな女、神様に選ばれた自分とまるでつりあうわけもなかった。
ただ、ふと思いついた。こんな女でも、もしかしたら、ぼくが未来にぼくとつりあうくらいの美人を口説き落とすときのための、嘘を磨くための練習台としてはいくらばかりか役に立つかもしれない。ぼくは女をからかうつもりすらなかった。ただ、練習台にちょうどいいと思った。それに、女も神様に選ばれた人間と付き合えるなら、練習台にされたって幸せだろうと思ったのだ。
すぐさま彼女の目を真剣にみつめながら、君の目は素敵だから、好きになってしまったと伝えた。女は狂喜して喜んだ。まるで子供のようにその赤い頬をなおさら赤くさせてきゃっきゃきゃっきゃと跳ねていた。ぼくは思わず笑みがこぼれてしまった。かわいいと思ったからではない。本当にばかすぎて笑ってしまったのだ。なるほどやっぱり世界なんてこの程度のものらしい。全てはぼくの思い通りで、どうにでもなるんだから。
せっかく女とつきあったのだし、性欲もたまっていたから、女とセックスでもしようかと思った。ぼくは世界の救世主なのだから、もうしばらくしたらすごく有名になるに決まっているのだし、そうしたらこの女をすてて、毎日とっかえひっかえ色んな美人とセックスでもしよう、それまではとりあえずこの練習台で我慢しとこうと考えた。女は簡単にぼくと寝た。結ばれるときには女の名前と、優しい言葉をたくさん耳元で言ってあげた。それから終わったあとは、やさしく頭をなぜながら、腕枕をして一緒に眠ってあげた。練習台にしちゃかわいがるじゃないかというかもしれないが、終わった後に急に態度を変えるなんていうのは、ぼくから言わせれば嘘の二流か三流もいいところで、そういうところがぼく以外の人間の愚鈍も愚鈍たる由縁である。次から練習台が練習台として使えなくなってしまうではないか。練習台にもケアが必要である。もちろん棄てるときも美しい言葉をふんだんにちりばめて、後の自分の輝かしい名誉を汚さぬように気をつけるべきだ。一日に一度は「愛してる」といって安心させてやるべきだろう。二週間に一度は花をプレゼントしてやった。五百円のやつでも、道端で拾ったタンポポでも、なんでもいいのだ。たったそれだけの努力で女はまた頬をリンゴのように赤らめて、練習台としての役割をちゃんと果たしてくれる。
女はいつでもにこにこしていた。こっちが嘘をついているとも知らずに、あんまりにこにこしているから、ばかなのじゃないかと思った。女はまるでぼくを疑わなかった。確かにぼくの嘘は完璧だったから、普通の人間には見抜けるはずもなかったが、それにしたって女があんまりぼくを疑わないで、いつもきゃっきゃと歓び、鳥のようにぱたぱたしているものだから、ぼくは更に実験をしてみることにした。どれだけひどいことをしてやればこの女は傷つくのかということである。ぼくはベッドの上で女の頬をひっぱたいたり、けっとばしてやったり、最中にひどいことをささやいてやったりしてやった。女はとうとう泣きそうな顔をした。ぼくはしてやったりと思った。ただ、それでも女は言うのだ。あなたにはどうしても嫌われたくないのだ。あなたがこんなことをするのは、私が至らないからだ。ぼくは、なんだかわけのわからない顔をして、歯を食いしばりながら、ほかの男としてこいといった。女はどんな命令にもしたがったが、これだけはしたがわなかった。
ぼくは次第に胸が苦しくなった。ぼくはふさぎこむようになってしまった。もしかしてこの女は、ぼくに何の取り柄がなかったとしても、ぼくのことを愛すのではないのかと思った。すごくならなければ誰もふりむいてくれない、愛してくれないと思って、たくさんのとても難しい本を読み、かっこいいバンドを作って狂人を装い(それが計算づくであったにせよのことである)、人には気を使い優しく(それが嘘であったにしろのことである)、人前ではいつでも機嫌よくさわやかに挨拶をして社交的で快活な人間を装い、(たとえ舞台裏で舌をだしていたにしろのことである)、そうして練習台の女にはたくさん花をくれてやった。ぼくにはもう、自分が、人にふりむいてもらいたくて嘘をついているのか、それとも人をばかにして嘘をついているのか、わからなくなってしまった。ぼくにはわからない、ぼくから大量の思想の知識や、かっこいいバンドや、人に気を使うことや、社交的な性格や、女にくれてやる花をのぞいたら、一体このぼくに何が残るというのだろう。神にえらばれなかったぼくなんて、本当にだれも相手にしてくれなくなるだろう。そうしてぼくはまたひとりぼっちだ。またぼくはひとりで、トイレの個室でお弁当を食べたり、名前にマジックでばってんをつけられた上履きを母さんにみつからないように、隠さなければならなくなることだろう。ぼくには何もない。びっくりするくらいに何もない。あるのは星の数ほどもある、無数の嘘だけ。この嘘で、ぼくは人をばかにし、人をふりむかせようとして、人がふりむいたら、またばかにするのだ。「今までたった一度ですら、ぼくの方をふりむこうとすらしなかったくせに、」そうして復讐しようとして、いっそこの世界をほろぼしてしまおうと、ギターをふりまわして大暴れするのだ。そうして、その大暴れすら、全部うそなのだ。ぼくが大暴れするさまを見て、涙を流したり、手を叩いてよかったといってくるやつがいたら、ばかなやつだと笑ってやろうと、いつでも待ち構えていたのだ。ぼくはいつだって神に手をかざしつけながら、殺してやる、殺してやるとうわごとのようにつぶやいていた。でも、それなら、世界を救うはずのぼくは一体何のために生きているのだろう。ぼくは神に選ばれたから、かろうじて人と対等につきあうことができるのだ。そうじゃなかったら、人とまともに目を合わせることすらできやしない。ぼくはみんなの前で土下座しなければならない、そうして、どうか仲間にいれてくださいと絶叫しなければならない。それでも相手にするものなんているものか。ツバをはきかけ、みなぼくのもとから去っていくことだろう。ぼくのことなんてしらないっていうだろう。
ぼくは女をほうって、違う女のところへ行った。(女のことが、なんだか怖かったのだ。)そうして違う女に、頭をふんづけ、「許してもらいたかったら土下座しろ」と言ってくれるように言った。違う女はその通りにした。色々な違う女のところで頭をふんづけてもらった。色々な違う女の前で、色々なばかな歌を歌った。
唾液をください それからぼくを踏んで
もしも許されるならば その手で首をしめて
息がしなくなるまで 太陽が見えなくなったら
ぼくもみんなのところへ 行けるだろうか?
明日が見えなくなったなら もうみんなは笑わないだろうか?
違う女はみな大笑いしてぼくを鞭打った。ぼくは涙ながらに許しをこうた。ぼくがばたばたするのがおもしろいらしく、違う女はなおさらぼくを打って踊らせた。実にぼくは何度も何度も悪魔と踊ったのだ。
ぼくは酒におぼれることが多くなった。毎日のように朝から浴びるように飲み、気づくと路上で寝ていた。吐いても吐いても飲むことをやめることができないのだ。断言して言うが、酒なんてこれっぽっちものみたくなかったのだ。けれども浴びるように飲むと、一瞬だけ、本当の心を出せる瞬間があるような気がするのだ。そんなときは路上でもなんでもおかまいなしだった。ぼくはその瞬間に、息も絶え絶えにして止め様のない涙をこぼし、月に祈りながら道路にひざまずき、この世界を許しをこうて大地にキスをした。すると女がやってきて、酔い倒れていたぼくの肩を抱き上げた。その顔は実に優しい、本物の天使のようであった!ぼくはぼくの神をみつけたのかもしれなかった。もうこれ以上戦わなくても、愛してくれる人をみつけたのかもしれなかった。女は涙と鼻水と吐瀉物でぐしゃぐしゃのぼくの顔を、不思議そうに笑いながらハンカチでふいてくれた。
しかしぼくは怖かったのだ。もしかして、ぼくは神様に見放されたのではないかと思ったのだ。群れる羊を神は愛さない。神が愛するのは孤高の人だけである。女なしでは生きられなくなってしまったぼくを、神は堕落したとして見切り普通の人間に落としたのではないかと考えた。ぼくはそれが怖かった。神に見捨てられ全てを失ったぼくを、女が愛してくれないかもしれないと思った。
そうして、それよりもっと恐ろしかったのは、ぼくがこの女を不幸にしてしまうかもしれないということだった。ぼくはこの女が大切になってしまった。ぼくは生まれてはじめて人の幸福を願った。嘘も打算も全部さしひいて、蚤ほどの大きさもないぼくのちっぽけな精神が、はじめて裸で、神様に人の幸福を願った。力強い自分は、そんな自分をせせら笑った。しかしそれでもまるでかまわなかった。この女は、ぼくのような人間ではなく、本当にこの女を心から愛してくれる人と幸せになるべきだと考えた。そうしてぼくは女に別れを切り出した。
女はばかのように泣いた。路上でも人前でもおかまいなしだった。絶対に嫌だ、そんなことするなら死んでやるといった。そうしてしまいには、どれだけ私が悩んだと思っているのだ、どうしてこんな人を好きになってしまったのだろうと、どれだけ苦しんだと思っているのだ、心から愛してくれる人と幸せになれなんて、そんなこと言うなんて失礼だ、などと言ってぼくをののしりだした。ぼくの胸もはりさけんばかりであったが、ニ、三時間かけて再三決意は変わらぬことを伝えると、涙ながらに了解した。
そうして、女を駅のプラットホームまで送っていった。そうすると、健気にもぼくの手をぎゅうと握るのである。ぼくは何度神様を裏切ろうと思ったかしれぬ。けれどぼくでは彼女を幸せにできぬのだ。ぼくは唇を噛んで電車をまった。
窓の向こうから、涙をこぼしながらこっちの方をみている女をみていると、胸がじりじりと痛んだ。そうして、やけっぱちになって町をうろつき、ビールを飲むと、たまらなく涙がこぼれでてきてもう前も見えないのだった。何杯も何杯ものんで泥酔したが、ぼくにはやはりわからなかった。これほどまでに神と真理を渇望して、一体その先に何があるというのだろう。いいや、ぼくは君の説教など聴きたくはない。「目の前の女を泣かして、何が神だ真理だ」などという説教は、絶対に聴きたくない。そういう人間は、はじめから幸せなのだ。自分が目の前にぽんと投げ出された幸せを、当然のように受け入れる権利があると考える、とてつもなく能天気な人種なのだ。ぼくはひょっとすると、君の方がぼくよりよっぽど傲慢なのではないのかと思うくらいだ。自分には幸福になる権利がある、だって自分は何も悪いことしてないもの。ああ、鳥肌が立つ!君はぼくよりずっと嘘つきか、よっぽどの愚鈍に違いないのだ!
ああ、それでもぼくは、五杯目のビールを飲み干したときに、とうとう神様を裏切ってしまった!ぼくは駆け出し、終電にとびのって彼女の家まで電車で二時間、ごとごとごとごとと揺られていったのである。そうして、彼女の家の住所もよくわからぬのに、海の近くにあったはずだという記憶だけをたよりに、ひたすらにただただ駆け回り、とうとう一度だけ行った記憶がある家を見つけ出して、深夜に彼女をたたき起こした。彼女はあわてて飛び出してきて、大粒の涙をぼたぼたとこぼしながら、ぼくのことをぎゅうと抱きしめ、もう二度とあんなこと行ったら許さないといって、すぐさま許してくれた。ぼくはもう二度とこの女を離すまいと誓った。ぼくが悪かったのだ。ああ、ぼくは彼女に幾たびも幾たびもひどいことをした。許されるわけもない。神様は許してくれない。ああ、もう神様なんて知るものか。ぼくの罪も知るものか。許してもらう気などさらさらない、ぼくが嘘をつき、だまくらした人たちも、ぼくが傷つけ、いまだに苦しむ人たちも、ぼくが殺し、食べてしまった牛も豚も鶏も、みんな知らない!彼女とふたりならば、地獄におちたってかまわない!彼女が許してくれるなら、神様なんていなくてかまわない!とうとうぼくは彼女のおかげで、ぼくの中に、もうひとりのぼくを見つけたのだった。それは、ぼくが今まで野鼠のように嫌い、けなし、ばかにして、さげすんでいた、力もなく能力もないぼくである。そのぼくは神ではなく愚鈍な人だった。しかしながらぼくはこの愚鈍な人となり、再び一から神へと向かうのだ。この世界の全てが、どれだけ穢れて愚鈍でありながらも神をたたえ、許しあい、真理を愛すれば、きっと最後の日には神が全てを許されるに違いなかった。だから、ぼくはもう一度信じてみようと思った。全てをだ。全てを許さないのではなく、全てを信じるのだ。信じられない、信じられるではなく、信じるのだ。これはもう、神がいるかいないかなんてわかりっこないとか、科学がそのうち全部教えてくれるとか、そう言う問題では全くないのだ。信じるのだ。ただ愚鈍に信じるのだ。ぼくが殺した山のような屍の上に、ぼくらが抱きしめあう以上、きっとそうしなきゃいけないに決まってる!ぼくは有頂天になった。二十年以上も考えてずっとわからなかったことが、彼女のおかげで、やっとわかったのだ。都心から一時間もはなれた、海辺の彼女が住んでいた町は、空気が綺麗で、満天の星空が夜空にきらきらと輝いていた。いつしか、彼女と付き合いはじめて、五年もの月日がたっていた。
そうしてしばらくのこと、幸せな日々が続いた。今までできなかったことを、取り戻すかのようであった。ふたりでディズニーランドに行ったり、ごはんを食べたりした。ぼくは間違いなく、彼女を愛していた。嬉しくて嬉しくて、夜ひとりで寝ていると、いつの間にか枕に嬉し涙がこぼれた。
しかし、やがて彼女は引っ越しをせねばならなくなった。遠い町に、働き口をみつけたのだ。ぼくは、三十になったら、君もこっちに帰ってこれるし、ぼくも必ず君を食わせられるようになるから、そうしたら結婚しようといった。彼女はあのリンゴのような頬を赤らめて、満面の笑みで頷いた。そうしてきゃっきゃと、ウサギのように飛び跳ねた。五年前と何も変わらなかった。
彼女は、ぼくの知らない町に引っ越していった。
さらにしばらくがたち、彼女から電話で、突然別れたいと告げられた。ぼくは初め呆然とした。そうして、誰かそっちで好きなひとができたのだろうか、とたずねた。すると彼女は、今はわからないと答えた。今はわからないということは、いるということだろう。ぼくは打ちのめされたようだった。ぐうの音もでないとはこのことだった。でも、ぼくはなんだか、わかっていたのだ。昔のぼくだったら、彼女のことを、決して許さなかっただろう。やっぱりみな、ぼくのことを裏切るのだと思って、世界を恨み、悪魔になることを誓っただろう。いつしかナイフでももって街中にあらわれたかもしれない。許さない、ぼくを裏切ったことを許さない。けれども、ぼくは全然そう思わなかったのだ。愛してくれたからだ。彼女が一点の曇りもなく、ぼくのことを愛してくれたということを知っていたからだ。そこには何の疑いを挟む余地がないのだ。だからぼくはどうしても、彼女を許してやらなくちゃならなかった。それは決して、今までぼくが彼女に対して犯してきた罪にかんがみて、というわけじゃない。そうではなくて、全ての人間は罪人なのだ。あの、天使のような笑顔がにじむ、あの彼女ですらそうなのだから!人間はもろく、弱く、永遠もない。生きる場所も変われば、心だって変わってしまう。けれど、絶対に、その全ては許されるべきなのだ。だって、彼女はこんなにもぼくを愛してくれたのだから。そう、ぼくは知っていた。かつてあのお方が言われたことだ。「私は貴方が知らないと言うことをしっていた」。それは全く、恨みでも憎悪でも諦めでも、全くないのだ。そうして、それでも許すのだ。ぼくのことを誰もみてくれなかった、ぼくのことを馬鹿にした、ぼくのことを侮辱した、ぼくのことをじゃけんにした。画鋲が入った弁当をたべなければならなかった。ジャージがびりびりに破られていた。教科書に落書きがされていた。父さんのことを侮辱された。愛してないといわれた。ぼくの気持ちを裏切った。
しかし全てが、きっと許されるのだ。だってこんなにも彼女はぼくを愛したのだし、ぼくは彼女を愛したのだから!
ぼくは彼女に、最後のお願いとして、必ず、本当に君のことを愛してくれる人と、必ず幸せになりなさいと告げた。そうして、君のおかげでぼくは人間になれたんだと告げた。
「ありがとう。本当にありがとう。」
ぼくも泣いていた。彼女も泣いていた。でもそれは決して不幸と憎悪の涙ではない。
それは神の祝福と、愛の賛歌に違いないのだった。