私はアンドロイド。 23世紀のロシアで踊り子を務めている
私は月に一度のメンテナンスで半永久的に稼動することが出来る。
死ぬことはない。
眠ることもない。
その代償として、自分が本当に起きているのか、生きているのかもよくわからない。
もっとも、ロボットが生きているかどうかを気にするなんて妙な話だ。
それでも愛する人はいる。
劇場の下働きの老人、イワンだ。
イワンは月に一度、満月の夜、私を裸にしてメンテナンスをする。
油圧を下げ、しわだらけの手で、シリコンからにじんだオイルを丁寧に拭く。
もうこんなことがかれこれ8年も続いている。
私に見える世界は、現実と幻がごちゃごちゃだ。
眠らないアンドロイドは起きながらにして夢を見るからだ。
時折、イワンと踊る幻を見る。
どうしてこんな夢をみるのだろう。
ポールに映る自分の姿はひどく歪んでいる。
劇場は、床も天井も全てが鏡ばり。
無限の私が、じっと私を見つめて、私の目を回す。
もう何が過去で、何が今なのかもわからなくなった。
ふと気づくと、イワンが身体を拭いている。
真っ白のつきひかりが、鉄格子の窓から差し込んでいる。
そうしてまた気を失った。
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